大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和51年(行ウ)6号 判決

宝塚市鹿塩二丁目七番二六号

原告

田中喜一

右訴訟代理人弁護士

真砂泰三

山之内幸夫

西宮市江上町三の三五

被告

西宮税務署長

豊田嘉治

右指定代理人

石田赳

山中忠男

大野敢

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

一  原告

1  原告の昭和四二年度所得税について被告が昭和四四年七月五日付を以てなした更正処分及び過少申告加算税賦課処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

(請求原因)

一  被告は、原告が昭和四二年度所得税についてした申告(総所得金額一七三五万〇二二七円の損失)に対し、昭和四四年七月五日付を以て次の通り更正処分及び過少申告加算税賦課処分をなした。

事業所得の損失額 八四万八二一一円

譲渡所得の金額 四八六万二七〇〇円

給与所得の金額 一九七九万〇〇〇〇円

不動産所得の金額 一二万〇〇〇〇円

総所得金額 二三九二万四四八九円

納付すべき税額 二三七万九八〇〇円

過少申告加算税額 一一万八九〇〇円

二  原告は同年八月五日異議申立をしたが、三ヵ月経過後も決定がなかつたので審査請求とみなされ、昭和五〇年六月二〇日棄却

裁決(五月三〇日付)が原告に通知された。

三  前記更正処分のうち事業所得の損失額、譲渡所得の金額及び不動産所得の金額は何れも認めるが、給与所得の金額の認定に誤りがあるので、右更正処分等の取消を求める。

(被告の認否及び主張)

一  請求原因一、二の事実は総て認める。

二  原告の給与所得認定の根拠は次の通りである。

1  原告は訴外明星タクシー株式会社(以下明星タクシーと云う)の代表取締役であるところ、昭和四一年一二月二〇日訴外兵庫日本交通株式会社(以下兵庫日交と云う)代表取締役沢春蔵との間で、明星タクシーの営業上の積極、消極の全財産を代金二〇〇〇万円で兵庫日交に営業譲渡する旨の契約を締結し、同契約は昭和四二年四月四日大阪陸運局長の認可によつて完結した。

2  原告は兵庫日交より右営業譲渡の代金二〇〇〇万円の支払を受け自らこれを取得したが、右代金は明星タクシーが取得すべきものである。従つて原告の右取得は明星タクシーより役員賞与として原告に支給されたものと云うべきである。

(被告の右主張に対する原告の認否及び主張)

一  被告の主張二の1、2の事実中原告が明星タクシーの代表者であつたことは認めるが、その余の事実は総て否認する。

二  原告はその所有の明星タクシーの株式一万二〇〇〇株を、昭和四一年一二月二〇日訴外沢春蔵に対し代金二〇〇〇万円を以て売渡してその代金を取得した。従つて原告の取得した二〇〇〇万円は株式売却代金であつて明星タクシーからの給与ではない。原告はその後明星タクシーの代表取締役をを辞した。そして訴外沢巌が昭和四二年一月二九日右会社の代表取締役に就任し、その後同年二月一〇日頃明星タクシーと兵庫日交との間に営業譲渡契約がなされた様であるが、これは原告の全く関知しないところである。

(証拠)

一  原告

1  原告本人尋問の結果

2  乙第二ないし第四号証、第六号証の一、二の各成立は不知、その余の乙号各証の成立を認める。

二  被告

乙第一ないし第四号証、第五、第六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし四

理由

一  請求原因一の事実は当事者間に争いはなく、又原告の昭和四二年度の譲渡所得の金額、不動産所得の金額及び事業所得の損失額がいずれも被告の更正処分に示された通りであることは原告の認めるところである。

二  そこで原告の給与所得の点について検討するに、成立に争いのない乙第一号証、第五号証の一、二、第七号証、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、文書の形式、内容から公務員がその職務上作成した公文書と認められるから真正に成立したと推定すべき乙第二、第三号証、右乙第八号証の一により真正に成立したと認められる乙第四号証及び原告本人尋問の結果(後記一部措信しない部分を除く)によると、次の各事実を認めることが出来る。

1  明星タクシーは原告が実質上その全株式(一万二〇〇〇株)を所有していた会社で、伊丹市を営業区域としてタクシー業を営んでいたが、業績は必ずしも芳ばしくなかつたので、原告は右営業を処分したいと考えていたこと、一方兵庫日交は尼崎市を営業区域とするタクシー業を営んでいたところ、昭和四一年頃隣接の伊丹市への進出を計画し、同市に営業区域を持つタクシー営業の譲受を希望していたこと、(当時は新たにタクシー運送事業の認可を得ることは困難な状況にあつたので、既存業者の営業権を譲受ける方法がとられ、認可を受けたタクシー運送事業を所謂ナンバー権と称し、認可台数一台当りいくらと云う取引が行なわれていた。)

2  そこで昭和四一年一二月二〇日、訴外伊藤武雄の仲介で明星タクシーの代表者である原告と兵庫日交の代表者沢春蔵の代理人である沢巌との間に於て、明星タクシーの株式一万二〇〇〇株、タクシー営業権及びタクシー営業用の土地、自動車、施設及び設備、その他タクシー営業にかかる債権、債務を含めてのタクシー営業上の積極、消極の全資産を、代金二四〇〇万円を以て明星タクシーより兵庫日交へ譲渡する旨の契約が締結されたこと、右契約には明星タクシーの株式の売買も合意されているが、右契約の実質はタクシー営業権の譲渡であり、右代金二四〇〇万円の中四〇〇万円は右営業譲渡を明星タクシーの従業員との間で円滑に進むようにするための従業員に対する対策費を兵庫日交が負担することとしたものであり、従つて純粋の営業譲渡代金は二〇〇〇万円であるが、右金額は当時明星タクシーの認可自動車台数が二一台であつたので、一台当りのナンバー権を九〇万円ないし一〇〇万円として算出されたものであること、尚当時の明星タクシーの資産、負債の明細は明らかではなかつたが、その後の調査の結果昭和四二年四月五日当時判明した右明細によると、資産総額は二〇九一万一三三一円、負債総額は二〇九八万二四九二円であつて、負債の方が七万円余超過していたこと、右契約に於て株式をも売買の目的に加えたのは、一はタクシー営業権の譲渡は所轄陸運局長の認可を効力発生要件とされているところ、右認可を得るまでの間明星タクシーに於ける株主総会の特別決議その他の法的手続を円滑に進める必要があることと、他には右契約当日兵庫日交は原告の要請によって前記代金中一〇〇〇万円を原告に支払つたがその後右効力発生までに原告によつて右営業権を他へ二重に譲渡されるときは兵庫日交に於て損失を蒙るので斯る事態の発生を未然に防止する必要があつたこととによるものであつて、株式の譲渡は、営業権の譲渡を円滑、確実に履践せしめる為の手段に過ぎなかつたこと、

3  前記売買代金の残額一〇〇〇万円は昭和四二年三月一六日兵庫日交から原告に支払われたこと、その後前記営業譲渡についての大阪陸運局長の認可は同年四月四日なされこれにより右譲渡契約は完結したこと、

4  明星タクシーのタクシー営業は右四月四日を以て廃止され、同会社は同月八日解散したが、同年五月八日会社継続登記をし、同月一〇日商号を明星産業株式会社に改め、更に同年六月二日に大宝電化工業株式会社と変更しているところ、右会社継続等については沢春蔵、沢巌は全く関与しておらず、むしろ原告が株主として右手続に関与していること、

以上の事実が認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照してたやすく信用出来ない。そして以上認定の事実によると原告が兵庫日交から取得した二〇〇〇万円は、原告所有の明星タクシーの株式を譲渡した代金ではなく、明星タクシーがその有するタクシー営業権並びに右営業上の積極、消極の全財産を譲渡した代金であることは明らかである。

然るところ、右譲渡代金二〇〇〇万円が明星タクシーに留保されることなく、株式譲渡の対価として処理され、原告個人が取得したことは弁論の全趣旨からこれを認めることが出来る。

而して以上の事実からすると、前記営業譲渡契約は昭和四二年四月四日大阪陸運局長の認可によつて発効し、同日明星タクシーは右譲渡代金二〇〇〇万円を取得し、これを原告に賞与として支給したものと解するのが相当である。

然らば被告が昭和四二年度の原告の給与所得を右二〇〇〇万円の範囲内である一九七九万円と認定し、これに基く更正処分をなしたことは適法であつて、これを違法とする原告の主張は採用出来ない。

三  そうすると原告の昭和四二年度の総所得金額が二三九二万四四八九円となることは計算上明らかであるところ、右総所得金額を基礎とする原告の右年度の納付すべき所得税額が本件更正処分の通り二三七万九八〇〇円となることは、弁論の全趣旨によつてこれを認める。然るところ、原告が同年度の所得税について総所得金額を一七三五万〇二二七円の損失とする確定申告をなしたことは当事者間に争いのないところであるから、被告が右更正にかかる納付すべき税額二三七万九八〇〇円を基礎として過少申告加算税一一万八九〇〇円の賦課処分をなしたことも又適法であつて、これを適法とする原告の主張も又採用し得ないものである。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は失当として棄却すべきものであるから、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 林義一 裁判官 河田貢 裁判官 佃浩一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例